皆さんこんにちは👧
今回は「ロイヤルウースターの歴史」について紹介していきたいと思います。
ウースター窯の創業
ウースターはイギリスのウースターシャー州の州都です(下の地図の赤い部分ですね)。もしかすると初めて聞く方にはウースターソースの方が聞き覚えがあるかもしれませんね。位置的にはスポードやミントンなど多くの窯が集まる陶磁器の中心地であるスタッフォードシャー州の真下ですね。スタッフォードシャーと同じく良質な粘土や石炭が多く産出するウースターシャーでも1751年に薬剤師のウィリアム・デイヴィスと医師のジョン・ウォール博士を含む、15人の共同出資者によって「ウォール&Co」という陶磁器メーカーが設立されました。
「マイセンの歴史」の記事でも紹介しましたが、隣国ドイツでは一足早く1709年に磁器の製造に成功していましたが、イギリスでは原料のカオリンの入手が困難であったため磁器製品の製造はまだまだ確立されていませんでした。そんな中、ウースター窯設立の第1人者であるジョン・ウォール(1708-1776年)はコーンウォール(上の地図青色)で産出される凍石(ソープストーン)を30%ほど混ぜることで白くて硬い”ステアタイト磁器”を製造できることに目を付けます。そして、コーンウォールから年間20トンものソープストーンを取り寄せることでウースター窯の磁器製造が始まりました。
ウースター窯の栄光と分裂、そして再出発
ウースター窯の初期の作風は中国や日本の東洋磁器の写しから始まり、ドイツのマイセン、フランスのセーブルといった高級で手の届かない磁器の模倣した作品を製造しました。多くの素晴らしい作品を模倣していく中、独自の技術なども磨いていくウースター窯の評判は良く、遂にはイギリス王室へも陶磁器を献上することになります。
1788年、国王ジョージ三世とシャーロット王妃がウースター窯を訪問した際に目にした、ブルーリリー(後にロイヤルリリー)と呼ばれるシノワズリーのデザインをとても気に入られます。このような経緯もあり、1789年にウースター窯は王室御用達を承り「ロイヤルウースター」を名乗るようになりました。
ロイヤルリリーのカップ&ソーサー(出典:Replacement) |
しかし、輝かしく見えるロイヤルウースターの成功の裏側では徐々に内部分裂が始まっていました。
1つ目は「カーフレイ窯」です。以前の「コールポートの歴史」の記事でも出てきましたね。1772年まで、ウースター窯に所属していたトーマス・ターナーは銅板彫刻の技術だけでなく製磁に関する幅広い知識を身に着けていました。そんなターナーはウースター窯を去った後、僅か60㎞程離れた地にあったカーフレイ窯に加わり、ウースター窯で作っていたようにステアタイト磁器を製造したため、ウースター窯とは完全にライバル関係になってしまいます。
2つ目は「チェバレンズ窯」です。ターナーが去った後、創業者のジョン・ウォールらも引退していき、経営が悪くなってきたウースター窯を買収し指揮を執ったのはフライト一族でした。フライトは芸術家というより、ビジネスマンで作品をよくすることより、コスト削減を求めました。その結果、方針をよく思わなかった絵付師ロバート・チェバレンらは独立して、チェバレンズ窯が設立されました。
カーフレイ窯の結末についてはコールポートの歴史でもお話ししましたが、1799年にターナーの引退後コールポートに買収される形になりました。しかし、チェバレンズ窯の勢いはすごく、磁器の製造や絵付けの技術などウースター窯を超える作品を数多く生み出し、英国で最高の評価を受ける窯へと成長していきました。
その結果、1840年コスト削減を求めシンプルな作品を多く製造したウースター窯は、チェバレンズ窯に吸収合併される形となり、「ウースター・ロイヤル・ポーセリン」として再び1つの窯として再出発することとなりました。そして、1862年には現在呼ばれている「ロイヤルウースター」へと社名を変更します。
ロイヤルウースターの繁栄と個を重視したユニークなスタイル
1840年頃にはボーンチャイナも導入し順調そうなロイヤルウースターでしたが、1851年に世界で初めて開催されたロンドン万博では惨敗してしまいます。しかし、日本、中国、インド、中東など異国のスタイルを取り入れることで再び評価されさらに大きくなっていきました。
そして、ウースター窯はウスターシャー州の地元にある窯を次々に吸収していきました。人は昔の失敗から学んでいくものなんですね。創業当初は内部分裂してしまったウースター窯でしたが、今度は、無理に1つの会社としてまとめ上げず、材料の購入はまとめてするけど、製造は元の窯ごとに製造エリアを分けて協力し合わない「通勤制個別工房」と呼ばれるスタイルを採用しました。ウースターの人々は個性が強いのですね👪
このように個性を尊重したスタイルから次々に優秀なペインター(絵付師)が登場し、手の込んだ絵付けがされた作品が生まれていきます。
中でもハリー・デイビスは特に人気で、彼の描いた生き物はまるで生きているかのような完成度でした。その人気ぶりは、白磁に彼のサインがあるだけで値が付くとか😂
ウースターシャー州生まれでBBCの番組で骨董家の専門家として有名なフィリップ・セリスはyoutubeでのプレゼンで彼の中のベスト3は白鳥などの絵を得意とするチャーリー・ボールドウィン、フルーツ画で有名なリチャード・セブライト、そして彼もハリー・デイビスが最も卓越したペインターだと評しました。(https://www.youtube.com/watch?v=1-SkLeIhp1Q&t=1701s)。
20220215 Phillip Serrell's Online Talk '20th Century Hand-painted Worcester Porcelain'
ロイヤルウースターで活躍したペインター達(出典:古き旅) |
ロイヤルウースターの終焉
ロイヤルウースターでは手の込んだ絵付けが素晴らしい「ペインテッドフルーツ」や「動物」を描いた作品が数多く生まれましたが、そのコストと時間のかかる作品は20世紀の安価に大量に作られる時代の流れの中で、徐々に経営が悪くなっていきました。
コストカットの為、手の込んだ作品から安価に作れる作品へとシフトしていきますが、2009年にポートメリオングループに買収されしまいました。
コスト削減を求めて作風がなくなってしまう。これはフライトが招いた失敗を繰り返していまったのかもしれませんね。
終わりに
最後まで読んでいただきありがとうございます。歴史を学ぶと窯の特徴が見えてきて、アンティークをさらに楽しめるのではないでしょうか。
ウースター窯の個性あふれるスタイルは、窯全体としての作品というよりは、作品それぞれが制作者によって違うのを楽しむのがいいような気がしますね😊
私のオンラインショップyumikichiでも、ロイヤルウースターのお品を取り扱っているので是非ご検討ください!
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